◆障害者差別解消法◆

葛飾区聴力障害者協会・手話サークル葛飾 合同講演会

 

テーマ:「障害者差別解消法 ~地域生活で生かす~」

講師:崔 栄繁氏(さい・たかのり)DPI日本会議議長補佐

 

2017年2月26日(日)青戸地区センター

参加者44名(葛聴協15名、サークル22名、一般7名)

 

 

●●● 解消法の背景 障害者権利条約 ●●●

  

差別解消法の前提になっているのは

2006年に障害者権利条約が国連で採択され、日本は2014年に批准した。その批准のために国内の法整備が必要となり、2011年に障害者基本法が大幅に改正され、2013年に障害者雇用促進法が改正された。また権利条約の第4条を具体化するために差別解消法が2013年に制定され2016年に施行された。 

 

障害者権利条約の目指すもの

医学モデルから社会モデルへ…「保護の対象」から「権利の主体」へ。パラダイムシフト(枠組みの転換)のための条約。社会参加とは…働くこと、政治に参加すること、サークルに参加すること、映画を見ること、いろいろ。障害があると社会参加に不利になることがいっぱいある。医療モデルは障害者が障害を克服すべきという考え。社会モデルは焦点を社会に当て、社会は障害がない人を中心に作られているので障壁が多く、そのバリアは社会の努力によってなくそうという考え。

 

インクルーシヴ社会=お好み焼き社会?

インクルージョンとは障害のある人と無い人がわけ隔てられることなく、障害のある人が排除されずに共に暮らす、共に学ぶ、共に働くことができるように、社会が障害者をきちんとうけいれること。つまり、わかりやすく言えば、インクルーシヴ社会とはお好み焼き社会。皆が混ざりあう、仲間外れにされない→だから、お好み焼き、ちゃんぽん、ビビンパ。

 

条約の合理的配慮(第2条)

障害のある人が、障害のない人と同じように活動できるようにするための人的支援、設備や時間、場所などの変更や調整。障害者や家族、支援者の求めに応じて、場面場面で対応する支援、変更、調整。負担が大きすぎる場合は例外的に行わなくて良いもの。(現実社会との落としどころがある)

  

合理的配慮とは? 分かりやすい例①

例えば大学の大講義室のような広い場所での講義、講演では…マイクは前の席、後ろの席も聞きやすくする、聞こえる人のための配慮。モニター、スクリーンの利用は部屋の大小に関係なく多数の人が見やすくするための配慮。しかし障害のある人のための配慮が取り残されてしまうのは…少数派だから?特別扱いではなく、少数の人のためにも機会の平等をという考え方。

 

分かりやすい例②

ヤンキースタジアムには車いす席は68ヶ所。どの窓口でもチケットは買えるし、Webでも買える。しかも場所が選べる→障害のある人にも選べることを保障する大切な考え。これがインクルーシヴ社会。(一方、東京ドームの車いす席は12席のみ。甲子園では3塁側にしか車いす席がない。)しかも車いす席の位置は高くなっている。観客が興奮して立ち上がっても皆が見えるように‘サイトライン’が決まっている。これが機会平等の考え方。

 

●●● 障害者差別解消法 ●●●

 

障害差別を禁止する法律はどのようにできたか?

アメリカの動き、公民権運動の影響。肌の色による(黒人に対する)差別・偏見はなかなか無くならなかった。学校も黒人・白人は別だった。1954年公共教育の場における人種分離は違法という判決(ブラウン判決)がでた。1990年‘障害を持つアメリカ人法(ADA)’成立。これらが世界に影響した。

 

日本の差別解消法

626条からなる法律。基本方針(閣議決定)と対応要領・対応指針(各省庁・機関が作成)。目的は障害の有無によって分け隔てられない共生社会の実現=インクルーシヴ社会の実現。対象となる人はすべての「障害者」➡「社会モデル」の考え方を踏まえたもの。いわゆる障害者手帳の所持者に限らない。すべての障害者がこの法律の救済の対象である。禁止される差別は2つ。不当な差別的取り扱い。合理的配慮を行わないことは差別。その義務付けの対象は行政機関と事業者。不当な差別的取り扱いは禁止。合理的配慮は行政では義務、事業者は努力義務。※個人的な付き合い、家族間のできごとは解消法での対象に含まれない。

  

相談体制

自治体によりまちまちだが、相談センターを作る地域もある。行政から独立したものを作るべきだが、‘今あるものを使え’と国は言っている。教育委員会や法務局の権限には限界がある。現在は紛争解決の力が弱いところがこの法律の課題であり、将来は権限ある仕組みを作る必要がある。施行3年後の2019年には改正で必要な見直しをすることになり、事業者も義務となる。

  

●●● これから、地域で、どう生かす? ●●●

  

条例作り

法律を補完する条例を作る動きがある。千葉、静岡、徳島、明石市など。東京でも知事は条例を作る意思がある。条例に調整・斡旋の機能を持たせる、相談センター設置を盛り込むことができる。茨城、熊本では相談センターを設置し、専門員を持っている。これから、何が差別かを当事者がマスターし、条例を作る都の動きをしっかり見ていく必要がある。自治体の窓口に、団体として事例の蓄積をしていくことが必要になる。(成功例も解決できない例も。)条例無しでうまくやっている名古屋の例もある。

  

熊本の事例

「発達障害(自閉症)の子どもの家の近くで工事があり、慣れない音に反応してしまう」という相談が持ち込まれた。子どもが家にいない時間帯に工事をするよう調整した。結果 ➡ 工期にも間に合い、近隣の住民も自閉症の子どもがいることを理解し、配慮理解が進んだ。バリアが低くなった。事例解決+地域作りに成功した事例。

 

 まとめ

 この法律には‘障害のあるなしで隔てられない社会を作ろう’という、法律を作った人の思いが込められている。偏見や先入観をなくし、法律の趣旨を伝えるために地域住民へ啓発し、地域行政とは協力していく必要がある。法律は生まれたばかり。みんなで大きく育てていきましょう。建設的で、前向きな対話、やり取りができる地域をつくるため、インクルーシヴ社会を作るためにみんなで頑張りましょう。

                           (報告作成:田村和子)